読む

2024.12.10 台所手帖

私は、必ずしも美味しい料理が作れるわけではない、と気が付いた!ということ

私は、必ずしも美味しい料理が作れるわけではない、と気が付いた!ということ

少しショッキングなサブタイトルから始まります。うすうす気が付いていましたが、ついにしっかりと自覚してしまいました。私は、美味しいお料理を作ることができるわけではないということに。
子どもたちのお母さん達との交流は様々な気付きを与えてくれるので刺激的です。大きな学びの扉が開きます。今回はあまりに根源的過ぎますが、私のライフワークであるお料理で命を養う、心と身体が整う料理は、決して「美味しい」を目指しているわけではないということを再認識しました。久々に母がお寺の台所に立ってくれて、それを嬉しく眺めていたら「おいしい、と言ってもらうこと」が嬉しいのだと言っていました。「ハテ、私はどうだろう?」そこから「?」が始まっていたのだと思います。
実に6年ぶりの開山忌のおふるまいでした。今回は三好典座和尚様に御来山頂き、直々に修行道場で腕を振るわれたご様子を拝見いたしました。一緒に同じ厨房に立つことができたことは光栄としか言いようがなく、恐れ多い気持ちの方が強く調理に入るまでは不安しかありませんでした。ところが献立の確認をしていただき、買い出しの材料をチエックしていただき、作り進めてゆくうちに、ほんの一瞬気のせいかと思うほどの瞬間でしたが、方丈様の中に修行道場で光らせていたであろう眼差しを見て安心しました。典座和尚様にとってはどこにおられても同じことなのだとわかったからです。今年は方丈さんの修業仲間の三宝寺様の奥様である、ともちゃんも手伝いに来てくれて大変助かりました。彼女のInstagramには、ほぼリアルタイムでの開山忌がアップされていますからぜひご覧ください。
@sanbouji_official
三好典座和尚様の仕立てるお料理は、どれも美味しいと思いました。滋味のある、やさしい調和した料理でした。一緒に厨房でお仕事をさせていただいた後の今ではご著作の手元の写真が立体的に見える、という不思議を味わっています。私は「おいしい料理」を作ることができるのだろうか。もうしばらくこの問いへの答えは自問自答してみようと思います。「私は美味しい料理をつくりたいのかどうか」と変換してみてもよいかもしれません。みなさまはいかがですか?美味しい料理って、何でしょう?

2024.10.25 台所手帖

失敗は成功のもと

失敗は成功のもと

池坊のお華の先生のお宅で、少々季節外れの風船カズラが花をつけて揺れていました。とても可憐で儚げながら小さな白い花と緑の繊細な風船が印象的でついつい目にすると顔がほころびます。そういう草花の存在に幸せを感じます。どなたでも、笑顔で対応してくださるとうれしいなと思う、それに近いと感じた今日この頃です。急に朝晩冷え込みあっという間に冬かと思えば日中は夏日。着衣に迷っております。
以前に教えて頂いた赤ずいきの汁を作りましょうと、里芋人参大根などを煮込んで、うっかり赤ずいきを刻んで入れてしまいました。途中からおっと、と気づいて皮をむき刻んで(本当は湯通しして絞るなあ、、)と思いながらなんとかなるか、と料理を続行してしまいました。味噌を溶いていただいていると、「なんだか舌がピリピリする!」と食べた皆がいいだしました。実際、これはシュウ酸カルシウムの仕業、赤ずいきのあく抜きをしっかりしなかったことが原因でした。シュウ酸カルシウムの結晶は四角だか三角だかに尖っていて、そのとんがりが口内を刺激していたのでした。料理はやはり、必要な手順をしっかり踏まえなければならない、ということですね。そのあと、ひと鍋の汁をどうしたかというと、いったんピリピリのアクの溶け込んだ汁を洗い流して、新しく出汁を足したのでした。久々の大失敗でした。

〈きくらげL I F E〉
9月に、天徳寺典座寮にて撮影協力をさせていただきました。菌塵研究所のスタッフさんのもえちゃんとは、京都で入門した薬膳教室の先輩後輩、いつか何かを一緒にしたいね!といっていました。だんご汁を一緒に作ったり味噌づくりの会に誘ってもらったり、薬膳料理の会に誘ってくれたり、松露やきのこについていろんなことを教えてくれるきのこの達人です。

1年分の季節を1日で撮るという、プロの撮影現場に真剣勝負。料理の出来栄えは、さて、Instagramにてお楽しみに。
@kikurage_life
撮影は道環の写真でおなじみの僕ら、の藤田さん。日々是修行、お料理の研究、修行します。

2024.08.10 台所手帖

夏のごはん

夏のごはん

みなさまいかがお過ごしですか?山河草木のうつろいは、正直ですね。芽吹いた緑があっという間に濃くなって、お寺の裏の山も青々と茂っています。あまりに気温の高い日には木々の枝葉が裏返って逆立ち、白色系茶色緑に見えるような時があります。雨風の被害が広がらず、動物と人とのバランスが保たれますように。
地球環境を心配する当の私はといえば、規則正しく過ごしたいのに仕事の段取りをうまく組めずに悪戦苦闘しています。そうすると身体が定期的に悲鳴を上げます。心身ともに滞りをなくして、気血の流れがうまく巡るように暮らしたいものです。
元気が足りない時には、季節の野菜ご飯がいいですね。空豆、インゲン豆美味しく頂きました。いまは、胡瓜、トマト、甘長唐辛子、ピーマン、西瓜、そしてトウモロコシの出番です。皆さんは、トウモロコシはどのように召し上がりますか?塩ゆでが多いかも知れませんね。蒸し器で蒸したり、グリルで焼いたり、天ぷらなどという場合もあると思います。手の込んだところでは、コーンスープでしょうか。子供の頃は祖母や母が作ってくれるコーンスープが楽しみでした。トウモロコシの皮を剥くお手伝いをしていましたが、それがとても大変な作業だったような記憶があります。けれど、それは自分が小さかったから。トウモロコシを剥く時は「あの頃」に一瞬戻れる楽しいひと時です。近頃は、茶色くなったトウモロコシのヒゲの先っちょをハサミでちょきんと切って皮を剥きながら、きれいな翡翠色のひげをつかんで纏めて引っ張り、そのひげも大切に使います。ひげは玉米鬚(ぎょくべいしゅ)とか南蛮毛という漢方薬です。車前草(オオバコ)や冬瓜皮などと一緒に煎じて、むくみ取りに使われます。芯は「玉米軸」といい、簡単にいえば、どれも身体の熱を冷ましたり余分な水分を出したりする働きがあるのです。
トウモロコシはもともとは南米原産で、栽培の歴史は、マヤ、アステカ古代文明にまで遡れるそうです。15世紀末にコロンブスによってヨーロッパに伝わり、ポルトガル人によってジャワに導入、16世紀ごろ中国に伝わり同時に日本にも伝えられたという説が有力です。「トウモロコシ」の品種は様々で甘みの少ない乾燥させて穀物として利用するものと、乾燥させずに生を加熱して食べる甘みの強いものがあります。日本では「甜質型」(スイートコーン)が多く栽培されていますが、中国では甘みのない「硬粒種」も製粉してマントウや粥にするそうです。トウモロコシ粉に山薬(山芋)を3:2でお粥にすると玉米山薬粥。話が逸れましたが、トウモロコシご飯をご紹介します。

【トウモロコシご飯の作り方】
トウモロコシ1本、給水させたお米3合、塩小さじ1を鍋に入れ炊きます。
炊き上がったらトウモロコシを芯から外し混ぜます。大葉青紫蘇があれば刻んで混ぜ込みます。
トマトの味噌汁とトウモロコシご飯に胡瓜の糠漬け、枇杷。是非やってみてください。
毎日のご飯で体調を整えることが出来たら何よりですね。ご無事に夏を乗り切りましょう。

2024.03.30 台所手帖

摂心会の献立

摂心会の献立

面玄関に、韋駄天様をお迎えして2年経ちます。今月の大般若法要で3年目になります。5年ぶりの摂心会はお釈迦様のお涅槃の日から始まりました。続々と懐かしいお顔が集まる中、韋駄天様に涅槃だんごをお供えし、早朝の粥の準備にかかりました。今年は、毎年福島からお出でいただく和尚さまが2日目からしか来られない、ということで前半は天徳寺典座寮が担当することになりました。
最初の日の朝は、15日のお涅槃だんごのお下がりを粥に入れ、白胡麻塩でいただきました。青黄赤白黒(しょうおうしゃくびゃくこく)これは木火土金水、五行の色合いに対応しており、生きている世界を象徴しているのでしょうか、涅槃の世界とこの世の繋がりを示しているのでしょうか。涅槃団子の赤は紅大根(ビーツのジャム)黄色は南瓜、青は蓬と抹茶で黒は黒胡麻(胡麻は油が出たので竹炭か焙煎黒豆の方がよい)で作りました。粥とほうれん草のお浸し、蕪と干し柿の胡麻酢和え、白菜の乳酸発酵漬けで、摂心会のスタートを切りました。
写真にありますのは、中食、昼御飯です。にせえびフライ。人参を縦に4等分し、蒸して衣をつけて揚げています。お味は人参の甘みを少しの塩で引き出し、菜種油で軽く揚げます。バッター液は片栗粉、おろし長芋に米粉を水溶きにしてくぐらせて、しっぽになる部分を残してパン粉をつけて揚げてあります。
頂いた干し柿に胡桃を鋳込み揚げたものを添え、ブロッコリーには乾燥桑の実を胡麻酢で伸ばした紫色を纏わせました。朝の胡麻酢がベースです。禅皿には塩もみキャベツとオイルでタルカ(揚げた)フェンネル和えと、人参と柑橘と白芥子(消化を助けます)薩摩芋のレモン煮を。汁は四神湯という薬膳スープ(蓮の実、欠実=オニバスの実、ハトムギ、山薬=自然薯を煮込むもの)をベースにしました。セロリと人参で補った気を巡らせるよう、藤原みそこうじ店さんの野生麹の味噌を使い、椎茸と昆布、炒り玄米の出汁でみそ汁に仕立てます。ご飯はシンプルに、梅干しを付けた時の紫蘇と穂紫蘇を混ぜて乾燥させたものを混ぜました。漬物は板井原の昔ながらの漬物です。身体に入ったものがうまく調和して、消化を助けますように、気血が巡りますように。そう願いながら献立を組みます。
私は日頃から原木椎茸を見つけると、少しずつザルで干しておきます。干し椎茸があれば、特別なものはなにもいらない、と思うのです。季節の野菜を頂いてお料理することができるということ、仏さまにお供えしていただき、坐禅堂で行持として頂いてくださる方々がいること、ありがたいことです。
夜、薬石には百合根餡をつつんだ蓮根だんごをつくりました。これこそ先回のひりょうすの経験を生かせる!はずだったのですが、どうだったかといえば、まぁ、なかなか理想通りにはゆきません。みなで行じること、それがすべてだな、と思いました。天徳寺には有髪でも、僧侶として修行道場を経ていなくても「一緒に行じよう」「行じる仲間の集いこそがサンガ=お釈迦様が目指したこと」だという考えの和尚さま方が沢山集まられます。お陰で、坐禅会の皆さまだけでなく一般の参加者さまも、ともに行じることができるのです。天徳寺は昔から修行道場だったそうですが、今もなお、お檀家さまの皆さまのお陰で行じることのできるお寺です。私は皆さまに修行の様子をお伝えすることも大切な役目のひとつだと思っているので、今年はこの報告をすることができて嬉しく思います。 

2023.11.25 台所手帖

白木耳の糖水「銀耳梨蓮子枸杞」ぎんじなしれんしくことうすい

白木耳の糖水「銀耳梨蓮子枸杞」ぎんじなしれんしくことうすい

白木耳しろきくらげの「銀耳梨蓮子枸杞糖水」ぎんじ なし れんし くこ とうすい

寺市で、白木耳と梨、蓮の実、枸杞入りのデザートをご紹介しました。 白木耳は中国名を銀耳(ぎんじ)といい、もともと天然のものは産量が少なく貴重な食材でした。 清朝以降に宮中で知られるようになったそうですが、1980年代には栽培も可能になり、手に入りやすくなりました。白木耳は香港中心の広東料理では食後に頂く甘くて温かいスープそして頂くことが多いようです。そのスープには種類も豆類や穀類などがあり、いわゆる甘い汁物の総称が糖水。山西の人が酢を飲んだり、湖南の人が辛いものを食べたりするのと同じくらい広東の人は糖水を食べるそうです。つまり糖水は四季を通して生活の一部で、日本でいうならば、ぜんざいやおしるこみたいなものなのかもしれませんね。

 最近は日本でもよく、アンチエイジングの美肌食材として白木耳を使った献立が紹介されています。水溶性食物繊維が豊富で、体内の必要な水分を増やし、肌にも潤いをもたらす作用が高い!(←ここが大切)きのこなのに寒天やゼリーのように変身する不思議な食材です。水戻ししてさっとゆでたくらいでも食べられるのですが、消化吸収、効果を得るならば柔らかく煮るべし、だそうで、高齢でも現役で治療に携わる中医師の先生方にとっても欠かせないのだとか。中国の家庭に留学されていた薬膳の先生が、乾燥で喉の不調が出た時に師匠の家庭で教わったという白木耳と梨を煮込むおやつのアレンジが、今回ご紹介する糖水です。最初のうちは、なかなかきくらげをトロトロに煮ることができず、随分と苦労したのですが「圧力鍋で煮てもいいよ!もう少し時間をかけて煮てみてごらん」という先生からの軽やかなアドバイスのお陰で上手に作れるようになりました。

 お味はどうか、というと白木耳そのものは淡泊です。味も香りもあるのかないのか?ない?かも知れない。なので、氷砂糖で甘みを足し柑橘類で味を調えます。カラカラで黄色い湯葉みたいな白木耳は、水で20分も戻せば真っ白なプルプルの、かわいらしいともいえるような物体に変身します。そこからじっくり時間をかけて(2~3時間、圧力鍋で1時間)煮るとトロトロになります。その間に梨を切り同じく氷砂糖で煮ておきます。鳥取の梨はとても美味しく、丹精込めて育てられた梨に出会えるこの季節は待ち遠しいものです。梨はそのまま頂くだけではなく、すりおろしたり、調味料をまぜて料理につかったり。秋から冬にかけては、温かい甘酒とすりおろし梨をお好みであわせる、という鳥取的発酵薬膳飲料が気に入っています。梨の一番好きな頂き方は「切ってそのまま頂く梨に勝るものなし」なのですけれども、ほっと一息つきたいときのネルギーチャージドリンクとしての
HOT梨甘酒は最優秀賞ノミネート作品。

 蓮の実も、最近は手に入りやすいので、乾燥蓮の実ならば水戻しして同じように軟らかく煮て、氷砂糖で下味を含ませるとよいおやつになります。生ならば、蓮の芯まで美味しい!!蓮の実はおなかの調子を整えたり心のバランスを整え不眠などを改善する効果が期待される食材で、栗やお芋をあわせたような味がします。潰して蓮の実あんにしてもよいし、スープやお粥に入れても美味しい。

 白木耳に梨だけで頂いても、肺を潤し身体に潤いを与える食材なので充分効果アリ、なのですが今回は枸杞(くこ)と龍眼(りゅうがん)も一緒にご紹介。枸杞はゴジベリー。「日本にも自生のくこがあるよ」と中国は吉林省からお嫁に来ている知人に教えてもらいました。(最近餃子の皮づくりも習い、だんご汁→バックナンバー参照 だんご作りの要領と同じと知る)1日片手にひと盛り、約 20g 位食べ続ければドライアイや目の疲れを軽減したり老化症状を抑えることができるということで、自ら実践してみたら、リーディングクラス(老眼鏡)がなくても過ごせるようになりました。少しずつでも食べ続けることが肝心のようです。

 龍眼という名のドライフルーツ、聞いたことがありますか?日本では最南端の鹿児島の植物園でしか結実しないという果実です。血を補いおなかをあたためつつ心を穏やかに保つ力を持つ食材で、ライチのような果物なのですが水戻しすると、大きな目玉のように見えなくもない。龍の眼、なるほどそんなイメージだわ、と納得できてしまうような果物です。龍眼と棗(なつめ)は元気の気を補うためによく使う薬膳食材で、棗は食材というより茶道のお道具として名が通っていますね。薄茶(抹茶)を入れる塗りのいれものを「おなつめ」といいます。茶道にはなくてはならないお道具なのに、今ではめったに生の棗を食べることはない。伝統文化入りして保たれてはいるけれど、なじみのない食材なのでは?と長らく不思議に思っていたのでした。ところが薬膳にであってからは棗や龍眼は元気を補う重要な食材で、お隣の韓国や中国ではとてもよく食されている果実だと知るのです。長年の疑問「よく使われるお道具に例えられる果実なら、棗は利休さまの生きた時代にも重宝されていたのではないか?」への答えが見つかったというわけです。大事に頂かれていたことでしょう。時間を見つけて茶会記など資料を調べてみなければなりません。茶事の献立に柿はよく記されていた記憶にありますが、はて。棗はあっただろうか。
 実際、お檀家さまたちから棗も桑の実も「小さい頃には、ようおやつにしとったわあ~!懐かしい~!」との声をききます。なるほど。だからこそお元気で過ごせているのね!季節の野菜、果物をそのときどきに楽しめる鳥取生活は本当に幸せなものなのです。
ありがとう、鳥取。

いつか天然の白木耳で糖水を作ってみたいな、と願いながら今日はこの辺で。