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2021.07.01 住職のおすすめ本

「子どもの話にどんな返事をしてますか?」 草思社

「子どもの話にどんな返事をしてますか?」 草思社

「子どもの話にどんな返事をしてますか?」 草思社
ハイム・G・ギノット 菅 靖彦訳

子育てはつくづく難しい。子どもは、こちらが思うようには決してなってはくれず、すねるし、怒るし、泣くし、あばれる。どうやってコントロールしようかと考える親の思いを常に裏切ってゆく。今、問題になっている多くの虐待事件や、親への暴力事件は、そもそもこうした親子間の日々のすれちがいが積み重なってエスカレートしてきたもののように思える。それは、親と子どもの双方に大きな負担を強いる。ではそのような、双方に不幸をもたらすすれ違いが起こらないようにするにはどうすればよいか。本書を読んで、わたしは大げさでなく、子どもへの言葉の使い方が180度変わった。

 本書は「はじめに」で、次のように言う。「子どもを傷つけるような対応の仕方をするのは底意地の悪い親だけだとわたしたちは思いがちである。だが、不幸なことに、そうではない。愛情豊かで、善意の心をもった親も、責める、辱める、非難する、あざける、脅す、金品で買収する、レッテルを貼る、罰する、説教する、道徳をおしつける、ということをひんぱんにしている。なぜだろう?たいていの親は、言葉がもつ破壊的な力に気づいていないからだ。親たちは、気づくと、自分が親から言われたことを子どもたちに言っている。自分の嫌いな口調で、言うつもりのなかったことを言っているのだ。

そのようなコミュニケーションの悲劇は、思いやりに欠けているからではなく、理解不足に起因していることが多い。親は子どもたちとのかかわりで、特別なコミュニケーションのスキルを必要とする」。この箇所を読んで、ギクッとしない親は、多分いないだろう。それぞれ多かれ少なかれ思い当たるところがあるからだ。

では、このような悲劇に陥らないコミュニケーションのスキルを、どのように身につければよいか。親たちはともすれば、子どものふるまいとともに、その気持ちも批判し、制限してしまおうとする。しかし、私たちもそうだが、子どもの気持ちは、外から強制的に変えられるようなものではないのだ。ふるまいと共に気持ちまで批判すれば、子どもたちは「自分はわかってもらえていない」と思うだけだろう。だから、気持ちは全面的に受け止め、行為だけはその場面に応じて制限をかける、という、寛容さと冷静さとが親には必要なのだ。さらに、それは抽象的な机上の教育論としてではなく、子どもに言葉をかけるときに、カッとなって批判したり、詰問したり、皮肉を言ったりことのかわりに、気持ちを全面的に受け止める言葉と、彼らの行為を明確に制限する言葉を発するようにするという、実践の問題としてあるのである。ここにスキルが必要なのである。

 本書には、実際の場面における話し方の実例が多数挙げられ、読むことで自然とスキルが上げられるように工夫されている。子どもに対するこのコミュニケーションのスキルは、どのような世代の人々に対しても有効であり、私たちは本書を読むことによって、いわば対人関係の基礎スキルを学ぶことができるわけなのだ。育児に悩むご家庭のみならず、あらゆる世代に強くおすすめする本である。